幸せの花 ルドゥビカ
原作:かなこ
脚色:かとうはかる
第一章・・ 海の妖精ヘルデイ ー
(ー)
果てしなく続く大海原に、サンサンと太陽の光が降り注いでいる。海中から水面を見ると、太陽の光がまるでダイヤモンドのようにキラキラと輝いて見える。そこに気持ちの良い風が吹きつけると、水面が波立ち一段と輝きを増してくる。なんと海は美しいのだろう!
「 海って、美しいねぇ、ウルテ!・・ 」
クラムが言った。
「 本当に美しいね!でもこの美しい海・・いつまで見られるだろうか?!もしかしたら、数十年後にはもう、見られないかも知れないよ! 」
ウルテが言った。
「そうだね! 珊瑚礁の白化が急激に進んでいるのを見ると、本当にそうなるかも知れないね! 」
クラムは先日、珊瑚礁の白化状況を見てきたばかりであった。
ウルテとクラムは、ヘルディーと言う名の海の妖精である。クラムは、数億年前に地球で誕生した妖精であった。一方ウルテの方は、地球誕生と同時に天から派遣された妖精であった。だからウルテは、地球の事は勿論、 宇宙の事も知っていた。クラムはその事を知っていたので、ウルテを尊敬していたし、頼りにもしていた。
ヘルデイーは目に見えないため、人類は 彼らの存在を知らないのである。でも海の仲間たちは、みな知っていた。
「人間たちは、海底に穴を開けルドゥビカを取っているけれど、そのために海の仲間たちがどれほど迷惑していることだろう!」
クラムは、語気を強めて言った。
「地上では取り付くしたので、最近は大陸棚にまで穴を開け、ルドゥビカを取っているのさ! 一体彼らは、どこまで掘りつくせば気が済むんだろうね!? 」
ウルテは静かに言った。
「本当に困った人間たちだ!!」クラムは 、大型船の船底を恨めしそうに見つめながら、怒るように言った。
「どうしたんだい!クラム?・・そんなに感情的になるなんて!」
ウルテは言った。
「最近、寝不足が続いているんだよ!何せ、物凄い騒音を出す機械が、ひっきりなしに動いているんだから・・・それも有害な電波をビンビン発信して・・・だから、よく眠れないんだよ!」
「そうか!だから、機嫌が悪いんだね! でも、あまり怒ると体に良くないよ!」
ウルテは、笑いながら言った。
クラムが怒るのも当然であった。人間たちは海底に穴を開けルドゥビカを吸い取っているが、 そのためにどれほど海が汚れたことだろう。このまま海を汚し続けたら、魚の住めない海になってしまうだろう? 実際に最近、魚が減ってきている。
ルドゥビカとは、七色に輝く「幸せの花」のことだ。「幸せの花」と言われる理由は、ルドゥビカを正しく使ったら、幸せになれるからである。
人類はルドゥビカを使って物質文明を築いてきたが、果たして物質文明は人類を本当に幸せにしてくれただろうか? もし本当に幸せにしてくれたなら、どうして次から次と争い事が起こるのだろうか? と言うことは、ルドゥビカを正しく使ってない! と言うことではないだろうか?
「俺たちヘルディーは、この地球で随分長いこと生きているけど、そんな花がなくたって幸せだよね !?」
クラムが言った。
「 当然さ! 幸せは、外側にあるのではなく、心の中にあるんだから ・・・。人間たちは、物が豊かになれば、幸せになれると思い違いしているんだよ!」
ウルテの重たい言葉だった。
「人間は幸せが欲しくてルドゥビカを使い、返って不幸せになっているんだね!?」
「 そうだよクラム! でも人間は、そのことに気付いていないんだよ! 」
「何て、人間は愚かなんだろう!・・・それに比べ、俺たちヘルディーは幸せだね! そんな花が無くたって幸せなんだから・・・」
クラムは、心からそう思った。
ウルテもクラムも、幸せの本当の意味を知っていたのである。
(ニ)
その日も朝から大型船が何隻もやってきて、大きな機械を海底の岩場に取り付けていた。大掛かりな作業で、海の中は見る間に泥で濁ってしまった。魚たちは、逃げ惑っている。クラムとウルテは、魚たちが巻き込まれないよう、安全な場所に誘導した。
その時だった。「カンカンカン!」と金属音が鳴り響き、 同時に「 ウォン!ウォン!」とサイレンが鳴り響いた。数人のダイバーが慌てて海中に飛び込んで行くのが見える。クラムが何事かと見に行くと、十数人のダイバーが崩れた岩の下敷きになっていた。一刻も早く助けなかったら、全員死んでしまうだろう。
「やれやれ、本当に海騒がせな連中だ!」クラムはそう呟くと、瞬間移動でもしたように事故現場に辿り着くと、いとも簡単に崩れた岩をはねのけた。
その場にいたダイバーたちは、一瞬、 何が起こったのか分からなかったが、岩が取り除かれたのを見て、「ウオー」と、驚きの声を上げた。
怪我した作業員が、次から次へと船に引き上げられてゆく。中には、瀕死の重傷を負っている者もいた。もう、作業を続けるどころではなかった。彼らは作業を中断すると、急遽引き上げて行った。当分作業はできないだろうと、クラムは思った 。
その夜ウルテは、クラムに近づこうとしなかった。
「ウルテ、ちょっと散歩に行かないかい?!」
クラムは、ウルテに近寄ると言った。
「いや、今夜はここでゆっくりくつろぎたいんだ。」
ウルテは、そっけなく応えた。
「昼間の事、やっぱり怒っているんだね。悪かったよ!もう絶対にしないよ・・。」
クラムは謝った。
「分かっているだろう! 僕たちの力を安易に使ってはならないことを・・・。ましてや、自然の摂理に反することに使うなんて・・・」
「ごめん! あまりにも大事故だったので、つい・・・!」
「彼らは原因と結果の法則よって痛い目に遭っているのだから、それを助けては彼らのためにならないんだよ! 彼らは痛い目に遭うことで、過ちに気付くんだから ・・・」
ウルテは、怒っている訳ではなかった。ただ、クラムが心配だったのだ。最近のクラムは、人間に情を移し過ぎているように思えたからである。
クラムもウルテも、これまで人類の文明崩壊を何度も目の当たりにしてきた。それは、原因と結果の法則によって、起こるべきにして起きた文明崩壊であった。欲望と感情によって栄えた文明は、人心の荒廃と環境破壊によって、必ず崩壊するようになっている。今回の文明もその方向に向かっていることを、クラムもウルテも知っていた。だから、何とか過ちに気付いてもらいたいと思っているのだが、人間は一向に気付こうとしない! それどころか、未だに空気を汚し、土を汚し、海を汚し続けている!
その夜クラムとウルテは、いつものように、地球環境について話し合った。今日のテーマは、プラスチックゴミの話であった。クラムは言った。
「魚たちに、プラスチックゴミを食べないように言っているんだが、彼らはどうしても食べてしまうんだよ!!どうしたらいいだろう!ウルテ・・・。」
「そう言えば、最近プラスチックゴミを食べて死ぬ魚がますます増えてきたね・・・。でも、手の打ちようがないんだよ! 細いプラスチックゴミが、海の中に溶け込んでいるんだからね・・・。」
ウルテは、どうしようもない!と言った素振りをした。
最近のクラムとウルテの話は、いつも地球環境の話しであった。数百年前までは、 滅多にこんな話をすることはなかった。でも最近は、頻繁にこの話が持ち出される。それほど地球環境は、悪化していたのである。その原因は、ルドゥビカの使い過ぎであった。今人類は、ルドゥビカを使ってたくさんの車を走らせ、たくさんの船を走らせ、たくさんの飛行機を飛ばし、大量の排気ガスを出している。また経済成長の名の下に、物を大量に生産し、大量に消費し、たくさんのゴミを出している。このまま進めば地球は、生き物が棲めない星になってしまうだろう。クラムとウルテの悩みは、日に日に大きくなるばかりであった 。
話が一段落すると、ウルテが言った。
「明日は土曜日なので、少し遠くまで足を伸ばそうと思うんだけど、クラムも来るかい?」
「僕は明日、ウミガメの産卵状態を見に行こうと思っているんだ!」
クラムとウルテの仕事は、この付近の海域を見回り、海の安全を図ることであった。
この地球には、たくさんの妖精たちが存在していて、自然環境を守るために陰ながら働いてくれている。海では、ヘルディーのような妖精たちが・・・陸では、ノームやエントなどの妖精たちが・・・また空では、シルフなどの妖精たちが ・・・でも人類は、そのことを全く知らないのである。
その日もウルテとクラムは、夜遅くまで地球環境について話し合った。
第2章・・少年との出会い
(ー)
翌朝、ウルテはいつもより早く目が覚めた。今日はいつも見回っている海域より、少し外側の海域まで足を伸ばしてみようと思っていた。ウルテは、ワクワクしながら泳いだ。すれ違うジンベエザメやナポレオンフィッシュなど、いつも見ている光景だったが、今日はいつもより輝いて見えた。やがて、管轄外の海域にたどり着いた。
そこにはカラフルな魚が、海藻の間を巡るように、たくさん泳いでいた。その魚に混じって、海水パンツとゴーグルだけで素潜りしている、一人の少年を発見した。背格好を見ると、12歳か13歳くらいだろうか? その少年は、まるで魚のようにスイスイと泳いで行く。海流に逆らわず泳ぐ技術は、海の中を熟知しているベテランダイバー並みであった。
『こんなところまで潜って、一体何をしているのだろう?』
ウルテは不思議に思い、少年の後について行った。
少年は片手に袋を持ち、時々止まると何かを拾っては、袋の中に入れている。
『何を拾っているのだろうか?』
ウルテは、さらに近寄ってみた。何と!少年は、プラスチックスゴミを拾っていたのである。
『なぜ、ゴミ拾いしているのだろうか?』
ウルテは、理由を知りたくなった。
少年は時々浮上しては息を吸い込み、再び潜るとゴミを拾い集めている。その手際の良さに、ウルテは感心した。少年は何度か同じ作業を繰り返していたが、ゴミ袋がいっぱいになったのか、砂浜に戻って行った。
『あ~あ、今日も良いことをしたなぁ~。』 少年は無言であったが、ウルテには少年の思いが聞こえていた。ウルテは、ますます少年に興味を持った。
(ニ)
一人の老人が、 横になって目を閉じている少年のそばに歩み寄ってきた。
「ねえ君!」 と、老人は声をかけた。
眠っているのか、少年は目を開けようとしない。
老人は再び 「ねぇ君!」と、少し大きな声で話しかけた。
少年は目を開け、驚いたように起き上がった。
「驚かせてゴメン! 実は君に聞きたいことがあるんだよ?」
少年は無反応であった。ただ、目をぱちくりさせている。
「なぜ、プラスチックスゴミを拾っているんだい!」
再び老人は、少年に訊いた。
少年は首を横に振ると、手を左右に動かし何かを訴え始めた。
『そうか!少年は耳が聴こえないのだ!耳が聴こえないから、言葉も話せないのだ!』
老人はそのことに気づくと、手話で話しかけた。
少年はこう言っていた。
少年は、生まれつき耳が聴こえないのだと言う。耳が聴こえないので、普通の学校にも通えない。また、友達になってくれる人もいない。でも海の中では、耳が聴こえるなくても、友達になってくれる魚たちがたくさんいる。だから、海が大好きなんだと言う。海の中では、耳が聴こえなくても言葉が話せなくても関係ないからだ!・・ 老人は、なるほどと思った。
プラッチックスゴミを拾っている理由は、魚たちにプラスチックスゴミを、呑み込んでもらいたくないからだと言う。
『それに母さんは口癖のように、1日に一度良いことをしなさい! って言うんです 』
『なぜかね?』
『良いことをすれば、神様がご褒美をくれるって言うんです』
『お母さんは、君の耳が聴こえるようになることを願って、そのようなこと言っているんだね。分かるよ! お母さんの気持ち ・・・』
『でも僕は、ご褒美が欲しくてやっているんじゃありません。魚たちのためにやっているだけです 』
少年の純真な思いが、老人に伝わってきた。
『それにしても、よくそんなに楽しくゴミ拾いできるもんだね ?!』 と老人が訊くと・・
『 だって! 魚たちが喜んでいる姿を見ると、とても幸せな気分になるんです!』 と、少年は笑顔で応えた。
ゴミ拾いは、母親と一緒にもうかれこれ二年以上もやっていると言う。何と感心な少年なのだろう! と、老人は思った。
その時、母親が怪訝な顔で近づいてきた。自分の子供が、見知らぬ老人と話しているのが、心配だったのだろう? 老人が理由を話すと安心したのか、母親の方から積極的に話しかけてきた。
海の近くに家があるので、毎週土曜日と日曜日の二日間 、海にゴミ拾いに来るのだと言う。
「お父さんは来ないのかい?」
と訊くと、父親は数年前に亡くなったと言う。だが二人には、そんな暗い影は少しもなかった。それどころか、母親も少年も明るかった。なぜそんなに明るいのが訊くと、母親は・・
「神様は明るいのが好きだから!・・」
と、はにかむように言った。何か宗教でもやっているのだろうか? と、老人は思った。
老人は二人を励ますと、また会うことを約束して別れた。
その後も少年と母親はゴミ拾いをしていたが、西の空が茜色に染まる頃、二人は拾い集めたゴミをゴミ集積場に収め、帰って行った。ウルテはそれを見届けると、その場を後にした。
その夜、いつもはクラムの方から話しかけてくるのだが、今日はウルテの方から話しかけた。
「いつも口の重たいウルテが、そんなに軽く口が動くなんて珍しいね !」
クラムが茶化すように言った。
「今日は、良いことがあったからね!!」
ウルテは今日の出来事を、少しでも早くクラムに報告したかったのだ。
ウルテは今日の出来事を、熱を込めて話し始めた。耳の聞こえない少年に出会ったこと ・・その少年が、ゴミ拾いをしていたこと ・・ またその少年の母親と、楽しく語り合ったことなどを話した。話し終えるとウルテは、クラムに言った。
「どうだいクラム! 君も少年に会ってみないかい?」
ウルテは、クラムにも少年を見て欲しいと思ったのだ。
「是非、僕も連れて行ってよ!」
クラムも、会いたいと思った。
「じゃ、明日一緒に行こう! 魚のように泳ぐ少年を見たら、君だって驚くと思うよ!」
ウルテは自慢気に言った。
その晩ウルテは、あの健気な親子に何かしてやれることがないか? 考えた。
第3章・・奇跡が起きた!?
(ー)
翌朝、ウルテが目覚めた時には、クラムはもう来ていた。どうやらクラムも、少年に興味を持ったようだ。
「じゃあ出発しよう!」
ウルテは、いつも以上に張り切っていた。クラムはその姿を見て、クスクスと笑った。
ウルテとクラムは、猛スピードで泳いだ。すれ違うシロナガスクジラや珍しいマンボウの群れにも目をくれず、一目散に泳いだ。とにかく、あの少年に一刻も早く会いたかったのだ。
やがてウルテとクラムの目の前に、魚のようにスイスイ泳ぐ少年の姿が見えてきた。
ウルテとクラムは、少年の後を追った。少年は相変わらずゴミを拾っては、袋の中に入れている。そして、時々海面に浮かぶと息を吸い込み、再び潜って行く・・・。その作業が、何度も繰り返されていた。
クラムが感心そうに言った。
「本当に、一生懸命ゴミ拾いしているね!」
「そうだろう!彼はただ、魚たちのためにやっているのさ!」
そう言い終わるとウルテは、真剣な顔でクラムに言った。
「先日、君に言ったね! 原因と結果の法則を曲げてはいけないと・・・ でも少年は、海を綺麗にしようと一生懸命働いている。これは良い原因を創っているんだから、良い結果が与えられて当然じゃないだろうか?!」
「何を言いたいんだい! ウルテ?・・」
クラムは怪訝な顔をした。
「僕は今日、少年のために少しだけ法則を曲げたいと思うんだ!」
ヘルディーは、賢い生命体ではあるけど、まだ情を持っている。だから情にほだされ、先日クラムがしたように、人助けをしたいと思うこともあるのである。それが、神人の心でもある。ヘルディーは、そこまで進化した生命体なのである。
「少しだけ法則を曲げるって、どうするんだい ?!」
クラムは、首を傾げながら訊いた。
「まあ見ててごらん!」
そう言うとウルテは、姿を消した。
(二)
岩場で休んでいた少年は、急に眠気を催し、ウトウトと眠ってしまった。少年は不思議な夢を見た。
昨日出会ったあの老人が、夢の中に出てきたのである。
老人は言った。
『少年よ! 君の純真な心に免じて、君の耳を聞こえるようにしてあげよう! 目を開けたら、三度両手を打ちなさい。一度目と二度目は、音は聞こえないだろうが、三度目打った時、音が聞こえるだろう。さあ! 目を開けやってみなさい!』
少年は目を覚ました。辺りを見回したが、老人の姿はない!
『なんだ夢だったのか!』
少年はガッカリした。でも、あまりにもリアルな夢だったので、少年はやってみようと思った。
1度両手を打った。『・・・・』
音は聴こえない。
2度両手を打った。『・・・・』
音は聴こえない。
3度両手を打った。と、「パチン!」と言う音が耳に飛び込んできた。
『あ!う!』
少年は、声にもならない声をあげた。少年は、何度も何度も手を叩いて確かめた。少年の顔が驚きの顔から、みるみる喜びの顔に変わって行く・・・。少年は岩場から飛び降りると、砂浜でゴミ拾いをしていた母親の所に一目散に走って行った。大声と手話を交え、母親に何かを訴えている。やがて母親の驚きの顔が、喜びの顔に変わった。母親は少年を抱きしめた。その目からは、涙が溢れていた。
それを見ていたウルテとクラムは、満足そうに頷き合った。
言葉が話せるようになるには、少し時間がかかるかも知れないが、もう少年は引け目を感じることはないだろう。勿論、普通の学校にも行けるだろう。そうなれば、友達もできるだろう。ウルテもクラムもそう思った。
クラムはウルテに訊いた 。
「どうやって少年の耳を治したの? 僕たちの力を使ったの?」
「いやそうじゃない! 少年は、生まれ付きの耳硬化症だったんだよ。でも、何度も海に潜っているうちに、水圧で耳硬化症が治ったのさ! 僕はただ、少しお手伝いしただけさ!」
「と言うことは、 原因と結果の法則を曲げたわけじゃないんだ?」
「 そうさ! だから、奇跡でも何でもないのさ!」
ウルテは笑いながら言った。
帰る途中のウルテとクラムの話しは、あの親子のことでもちきりだった。こんな爽快な気分になるのは、ウルテもクラムも久しぶりだった。とその時突然、ウルテが泳ぎを止めた。先日事故を起こした、あの大型船に出くわしたのである。あのような大事故を起したと言うのに、まだ懲りないで海底に穴を開けルドゥビカを探している。
「なんと、懲りない人間たちだ!」
冷静なウルテが、怒りの眼差しでクラムを見た。
『あの時助けなかったら、工事は再開していなかっただろう!』
そう思うと、クラムはウルテの顔をまともに見られなかった。
辺り一帯は、泥で濁っている。泥を避け逃げ惑っている魚たちを、ウルテとクラムは安全な場所に誘導した。
その夜ウルテとクラムは、今日の出来事を話し合った。一方は、金儲けのために地球を汚している人間たち・・・。一方は、魚たちのためにゴミを拾い集めている健気な親子・・・。何とも対照的な話であった。
確かに、ルドゥビカを手に入れたら、大金持ちになれるかも知れない。でも大金持ちになって、本当に幸せなんだろうか? あの親子は、生活は苦しいかも知れないが、楽しく生きている。少年は言っていた。
『魚たちが喜んでいる姿を見ると、幸せな気分になるんです!』
と・・・
貧乏だけれど、魚たちのためにゴミ拾いしている親子と、金儲けのために地球を汚している大金持ちと、どちらが幸せなのだろうか?・・・確かに神様は、人間たちに物質文明を許している。でもそれは、「地球環境を汚さない範囲で!」と言うことではないだろうか ?
世の中には、心霊治療によって癒される人がおります。これは自然の摂理を曲げているように思いますが、治ることが計画の中に入っていたから治ったのです。つまり、原因と結果の法則が帳消しにされることを先読みして、真我が心霊治療者に出くわして直させたのです。
この物語に出てくる少年の場合も、原因と結果の法則と計画とが一致して、耳が聞こえるようになったのですですから、決して自然の摂理を曲げたわけではないのです。
世の中には、奇跡的に動かない手足が動くようになったり、末期癌の病人が治ったりする人がおりますが、これは原因と結果の法則と計画との整合性があったから起きたことで、決して自然の法則を曲げたわけではないのです。
岩をはねのけたことは、法則を曲げてやったことですから、クラムに何らかのお咎めが来るでしょうが、ウルテのやったことは、因果の法則と計画の整合性を崩さず行ったのですから、大きな問題にはならないのです。