ムゲンの学び
作:かとう塾 冨岡晋
ムゲンには夢がありました。それは、もう一段波動の高い世界へ昇って行きたいと言う夢でした。今ムゲンが住んでいる世界も、悪い世界ではありません。家や家具が欲しいと思えば、自分の想念で造れるし、何処かに行きたいと思えば、自由に空を飛んで行くこともできます。また、周りの人たちとお話したいと思えばテレパシーで自由に会話もできます。
勿論この世界には、戦争も事故も災害も病気もありませんから、とても安心して暮らせる世界です。また、時々白亜の殿堂で行われるファンタジックな光や音の祭典や、真理の広場で行われる空中映像の祭典などは、ムゲンを大いに楽しませてくれます。自然界の美しさも地上界の比ではありません。でもそんな素晴らしい世界にいるムゲンも、時々降りてきて法を説く高貴な人の話を聞くと、もう一段波動の高い世界へ行ってみたいと思うのです。
そんなある日のことでした。ムゲンの前に神々しく光を放つ老人が現れ、こう言いました。
「ムゲンよ! お前は高い世界へ行きたいと思っているようだが、この世界で満足している限りその望みは叶わないのだよ! 高い世界に行きたいなら、地上界へ降りて行って魂を大きくしてくることじゃ」と・・・。
そうは言われても、ムゲンにとって今の世界はとても居心地が良いです。ですから、地上界に降りて行く気にはなれません。もう一つその気になれない理由は、前生地上界で大層苦しい人生体験をしていたからです。「もう、あんな苦しい人生体験はコリゴリだ! 二度と肉体なんか持ちたくない!」と、ムゲンは堅く心に決めていたのです。そんなわけですから、老人に諭されてもムゲンの心は動きませんでした。
それから数十年の歳月が流れました。最近のムゲンには、覇気がありません。何を見ても、何をやっても、虚しいのです。楽しかったこの世界が、今は苦しくさえ思えるのです。「あの空の上には、素晴らしい世界があるのか!・・・行ってみたいなあ!」ムゲンは、恨めしそうに空を見詰めるとそう呟くのでした。
その時、再び神々しい老人が現れ厳しい口調で言いました。
「ムゲンよ! 幸せの道は、自らの力で開拓しなければ開けないのだよ。このままこの世界にいたら、お前はダメになってしまう。さあ、勇気を出して地上に降りて行きなさい! そうすれば、お前の夢は叶えられるじゃろう!」
“地上界へ降りて行くべきか? この世界に留まるべきか? ”ムゲンの心は乱れます。老人は、追い打ちをかけるように言いました。
「霊性の進化の道は、誰も避けて通れない道なのじゃよ! ならば、できるだけ早く通過した方が利口ではないかね? それにムゲンよ! 最近のお前は、真理を求める熱が冷めているようじゃ・・・そうじゃないかね?!」
老人の言うとおりでした。最近のムゲンは、神に思いを向ける時間が少なくなっています。これではいけないと思うのですが、安楽な生活に流されてしまうと、どうしても神に思いを向る気になれないのです。
「では、数日考えさせてあげよう。それまで決めなさい!」
そう言うと老人は、ムゲンの前から姿を消しました。
時は熟成させると言いますが、数日間の時がムゲンの気持ちを変えさせました。ムゲンは決意しました。“ よし! 地上界へ降りて行って霊性を高めてこよう! ”と・・・。と、どうでしょう。決意した途端、老人が現れたのです。
「ムゲンよ! 決心したかね!」
「はい! 地上に降りて行きます」
「よく決心したね! では、地上に降りて行くに当たって必要なアドバイスをしよう。
お前の記憶は、生まれると同時に消される。だから、手探り状態で人生を歩まねばならない。肉体の中に入ったら五感の誘惑を受けるだろうが、それも克服しなければならない。他にもあるが、それは・・・。」
老人は、切々とアドバイスするのでした。
準備が整い地上界へ降りてゆく日が近づいてきました。ムゲンは光り輝く玉輿(光の玉の乗り物)に乗って待ちます。
地上界では、ムゲンの親となる男女の結婚式が行われています。やがて二人は結ばれます。そのタイミングを見計らってムゲンは、お母さんの子宮の中に降りて行くのでした。
前生のムゲンは、十七世紀男性として中国に生まれましたが、今生は現在の日本に女性として生まれました。名前は真理子。この名前は、真理子の誕生を心待ちにしていた父が付けてくれたものでした。
※絵をクリックすると「光の画集」に飛びます。
真理子には四つ年上の姉がおりましたが、なぜか父は姉よりも真理子の方を可愛がってくれます。祖母も父に輪をかけたように、真理子のことを可愛がってくれます。しかし、なぜか母は姉の方ばかり可愛がり、あまり真理子を可愛がってくれません。でも真理子は、そんな家族のもとでスクスクと育っていきました。
真理子は、走ることがとても好きでした。好きなだけあって、小学校の運動会や中学校の運動会ではいつも一番でした。高校生になるとその素質は開花し、地区大会に出られるほどの実力をつけていました。なぜか分からないけれど走りたいのです。走ると心が喜ぶのです。だから練習するし、練習するから実力も付くわけで、真理子の記録は陸上部の監督が目を細めるほど伸びて行きました。監督の望みは、真理子を地区大会で優勝させることでした。
春の地区大会がやってきました。家族が見守る中での大会でした。その大会で真理子は、圧倒的な強さで優勝したのです。その時ばかりは、母も姉も喜んでくれました。努力すれば報われることを知った真理子は、ますます練習に励むようになります。次の目標は、県大会で優勝することでした。その目標も、秋の県大会で見事に達成したのでした。こうなると、監督の期待は膨らむ一方です。次の目標は、国体でメダルを取ることでした。
そんな真理子に、一つの疑問がありました。県大会で優勝した時、監督も家族も喜んでくれたのに、なぜか当の真理子はそれほど喜べなかったのです。逆に、虚無感に襲われたのです。地区大会で優勝した時もそうでしたが、今回はその時よりも虚無感が大きいのです。なぜ虚無感に襲われるのか、当時の真理子には分かりませんでした。でも、周りの期待を一心に集めるようになった真理子は、ますます練習に励むようになります。何せ、走ることが楽しいのです。走っていると、心が晴れ晴れするのです。
このように、真理子の青春時代は輝いていたのです。
真理子の家庭環境は、父親の収入が良かったせいもあり何不自由なく生活することができました。ですから物質面では幸せでした。でも、精神面では決して幸せと言えませんでした。と言うのも、母と姉から口には言えない陰湿な虐めを受けていたからです。真理子の精神状態は、いつも怒りと不満でいっぱいでした。真理子が走ることが好きだったのは、走ることで鬱憤を晴らすしかなかったからかも知れません。母と姉と真理子の三人の確執は、憎しみと、恨みと、怒りで、それはそれは醜いものだったのです。ただ真理子にとって救いだったのは、母や姉から虐められた時、祖母がいつもかばってくれたことでした。そんな姉も好きな人ができ、二十歳そこそこで嫁いで行きました。
そんなある日のことでした。祖母が突然病気になり、アッという間に亡くなってしまったのです。真理子の悲しみは、あれほど好きだった走りを忘れさせるほどでした。練習しない日が続きました。一人部屋にこもり考えるようになりました。
“今まで元気だった人が、なぜ病気になり死ぬのだろうか?”
“死んだらどうなるのだろう?”
“死って何なのか?”
そのことが、片時も頭から離れません。悪いことは続くもので翌年の春、父が交通事故で急死したのです。酒を飲んだ挙句の交通事故でしたから、ぶつけた相手に賠償金を払わねばなりません。姉は遠くに嫁いで行ったので、姉の助けを借りることはできません。また母は、足が不自由だったので働くことができません。ですから、真理子が高校を中退し働きに出るしかありませんでした。そんなわけで、あれほど輝いていた真理子の青春時代は、祖母と父の死を境に暗雲の中に突き落とされたのでした。
人生に疑問を抱いていた真理子は、気分を変えたい思いもあって25才になった秋、気乗りしない相手と結婚しました。その夫は普段は大人しいのですが、酒を飲むと暴力を振るうほど人が変わってしまうのです。ですから喧嘩が絶えません。何とか耐えてきた真理子でしたが、夫の浮気を契機についに離婚を決意したのです。当時真理子には、二人の子供がおりましたので、二人の子供を抱えての離婚でした。
“どうして私は、こうも不幸続きなのだろう?”
“人生って何だろう?”
“人は何のために生きているのか?”
“私は苦しむために生まれてきたのか?”
人生に対する疑問は、膨らむ一方でした。でも、落ち込んでいる暇などありません。真理子は、二人の子供を育てるために必死になって働きました。
そんな真理子に、転機が訪れました。それは、「人類の夜明」と言う本に出会ったことがきっかけでした。真理子は、「人類の夜明」の本をむさぼるように読みました。“ 自分の知りたかったことはこれだ! ”それはそれは、目から鱗が落ちる思いでした。
その日から真理子は、真理の世界に取り込まれて行きました。真理子は、月一度の勉強会にも参加するようになりました。そこで教えていることは、何も難しいことではありません。誰もができる科学的な教えです。真理子が嬉しかったのは、魂を大きくする方法が自力であると言う教えでした。やればやった分自分が変われると言う教えは、陸上をやっていた時に体験した努力すれば報われると言うことに通じていたからです。さらに嬉しかったのは、自分の想念によって人生をどうにでも変えられると言う教えでした。事実、想念を正しく使うようになってから、自分の意識が変わりました。環境も変わりました。子供達も明るくなりました。経済的にも楽になりました。でも、ご利益を得たいからやったのではありません。疑問を解きたいからやったのです。動機は純粋でした。
「人類の夜明」の本を手にしたあの時から、十数年の時が流れていました。子供たちは今は独立し、それぞれ家庭を持っています。自分も今は、真理の求めやすい環境に置かれています。確かに、人生の荒波にもまれ苦しいことや悲しいことが沢山あったけれど、その体験があったればこそ今の自分があるのですから、苦しい人生に感謝しなければなりません。強がりで言っているのではありません。本心からそう思えるのです。今は心が穏やかです。それは、心の底で神の存在を信じられるようになったからです。
*****お終い******
この物語から学ぶこと・・・かとう はかる
○ムゲンと言う名の身体も、真理子と言う名の身体も、寿命がくれば原子崩壊して無くなるモノですから、ムゲンも真理子も一時の存在です。死んだ人を悲しがってならないと言うのは、彼らは名前だけの存在だからです。この世では名前や人格が重んじられらますが、重視すべきは名前でも人格でもありません。「命核」です。なぜなら、名前も人格もこの世限りのモノですが、命核は永遠に引き継がれて行くモノだからです。
○人生の道は点なのです。でも、命生の道は線なのです。ムゲンの一生は点でした。真理子の一生もいずれ点になります。点は一生限りですが、点と点はつながって線になっているのですから、一生一生は切り離されていないのです。事実、前世のムゲンの一点の生き様が、後世の真理子の一点の生き様に影響を与えています。つまり、ムゲンの悪しき想い癖が、今生の真理子の人生を苦しいものにしているのです。ですから、一生一生はとても大切です。また一生一生が大切なのは、一生一生で演じたドラマが究極の幸せの味付け材料になっているからです。
○前世ムゲンは、大酒を飲み浮気をし妻を苦しめました。今生ムゲンは真理子として生まれ、大酒飲みの夫に浮気をされ苦しめられました。苦しめれば苦しめられるのです。そうしなければ、自分の過ちに気づかないからです。熱の冷めない内に逆体験させた方が効果が大きいため、神はそのような仕組みを創ったのです。だから神は、「男性-女性・男性-女性・男性-女性」と交互に誕生させるのです。真理子が母や姉から虐めを受けたのは、前世のムゲンが同じことをしていたからです。
夫の浮気は、夫だけの責任でしょうか? 真理子に何も非がなければ、夫に浮気されることなどなかったはずです。真理子が、浮気される原因を(悪想念によって)作っていたから浮気されたのです。世間の人は、「良いことをしている人が悪い目を見て、悪いことをしている人が良い目を見てる」と言いますが、それは表面上を見るからで、心の中はどうなっているでしょうか? “どうして私は、こうも不幸続きなのだろう? ”と真理子は言いますが、果たして真理子の心の中はどうだったでしょうか? 憎しみや、恨みや、怒りで、いっぱいだったのではないでしょうか? 真理子の不幸は、そう言った悪想念が原因で起きたはずです。事実、真理を実践しはじめると、真理子の環境は良くなりました。それは、悪い原因を作らなくなったからです。
○真理子は、父親の魂の縁で生まれました。ですから、真理子を可愛がってくれたのは当然です。また祖母が真理子を可愛がってくれたのも、真理子に近い波動を持っていた魂だからです。母が真理子を可愛がらなかったのは、波動が違い過ぎていたからです。あまり波動が違い過ぎると、血を分けた親子でも好きになれないのです。母や姉との確執も、波動の違いから起きたことです。でも学ぶために肉親の縁を結んだのですから、家族体験を通して互いに学ばねばならないでしょう。では真理子と母と姉の三人の学びは、何だったのでしょうか? これは魂によって学ぶ中身が違うし、因果の絡みが複雑なので決めつけることはできませんが、互いに欠点を見せあいながら気付き、成長しようとしているのだと思います。いずれにしても家族の縁の結びつきは、家族全員の成長に必ずつながっているはずです。
○優勝した時虚無感に襲われたのは、この世の何を成しても虚しいことを真理子の魂が知っていたからです。これは、この世の何を得ても虚しいと思えるようになった魂が体験することで、悪いことでも特別なことでもありません。熟した魂は、この世の何を成してもあまり喜べないのです。その意味では、真理子の魂は相当熟した魂だったと言うことです。
○真理子が幼い時から走ることが好きだったのは、身体を動かせば原子核が増えることを過去世の体験から知っていたからです。原子核を増やす手っ取り早い方法は、スポーツなのです。だから魂は、進化のある過程で重点的にスポーツを体験させるのです。また原因と結果の法則を知らしめるためにも、すぐに結果の出るスポーツを体験をさせるのです。
○ムゲンが望んでいた一段高い世界へ行けるかどうかは、今後真理子が真理をどう深めるかにかかっています。もしかしたら、ムゲンが望んでいた世界よりも高い世界へ昇って行けるかも知れません。なぜなら、今真理子は、一生懸命二つのこと(社会体験と瞑想)を実践しているからです。
※今苦しい環境にある人は、人生が無駄に思えるかも知れません。でも神は、決して無駄なことはさせないのです。なぜなら、どんな生き方をしても必ず成長できるようになっているからです。これが神の愛の仕組みです。
人間は、自我の思い通りの生き方しかできないのです。でも、それで今日まで成長してこられたのですから、自我の思い通りの生き方で良かったのです。さあ、安心して自我の思い通りに生きてください。ただし、次の二つのことだけはやってください。一つは社会体験、二つは瞑想です。この二つをやっていれば、間違いなくあなたは成長します。これは私が保証するのではなく、宇宙の法則が保証してくれるのでから間違いありません。